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錆びた少女。(その2)
(つづき)

リンネ(役)を先頭に、他の女性出演者が舞台奥に向かって一列に並び、リンネの行動をトレースする。千手観音のような感じ、あるいはエグザイルみたいな感じ、と言えばわかるだろうか。いわゆるパラレルワールドってヤツである。そして、リンネ(役)の息子はミカミであるはずが、ここでは、オゾン(役)になっている。オゾンのラジオ好きは、実は母の影響。母が、ラジオから流れる、すばらしい音楽、パッへルベルのカノンを教えてくれたからだ。
そして、一列に並んでいる複数のリンネたちの列から、先頭のリンネが一番後ろへまわり、次ぎのリンネがもちろんリンネとして喋り始める。息子オゾンに作曲家になることを勧める。というシーンが終わるまで続く。
ひとつの世界では、リンネの息子は精神科医を目指すミカミであり、またひとつの世界では作曲家を目指すオゾンであるのかもしれない。

戦争のあったころ、バーチャルと呼ばれていたゲームの世界は、後頭部にプラグをとりつけることにより、脳に直接刺激を与えることで、脳で感じることが現実であるという、いわゆる現実世界との境をとりはらった究極のバーチャルリアリティを手に入れていた。
それから15年、そのプラグを経由して、意識へ、そして意識下へと直接働きかける治療法の確立により、ミカミは精神医学の分野でノーベル賞を受賞した医者となっていた。
しかし彼もまた、亡き母、恋しい母を求めるがゆえなのか、父の血脈を受け継いだ悲しい性からか、看護師ヤコウと浮気を繰り返していた。
そこに、オゾンが、少女を連れてやってくる。その、ラジオになってしまったという少女の名はリンネ。リンネは、両親と海に行った際、惨劇にあったという。母が父を拳銃で射殺してしまったというのである。
その浜辺をたまたま通りかかったというオゾンは、リンネを自分の娘として引き取り、自ら記憶を閉ざしてしまったというリンネを、治療のためにミカミの元へと連れてきたのだった。

リンネは自分が母の虐待を耐え忍ぶことこそが、母の精神を保つことにつながるのだと主張し、ついに虐待に気づいた父チダマリにも、このままにしておくよう頼みこむ。
母の顔色を察してか、お姉ちゃんいい子ぶってる!と、それでは面白くない妹のキヨラカは、実は望まれない子供をラジオに変えてしまうというオバアのラジオ工場へと忍び込む。そして、飲んだ者をラジオにかえてしまうという秘薬「人間の目玉」をまんまと盗み出し、姉のリンネに強引に飲ませてしまう。左半身からラジオに変貌していくリンネ。

母の死後、父と浮気相手ヤコウのもとに残されたミカミ。父への憎悪はますますつのるばかり。そんな折、復讐をはたす機会が訪れる。持病の発作に倒れる父に、ミカミは薬を渡さない。胸を押さえミカミを見据えながら、父は息絶えた。

オゾンはいつものように今日もルノアールに来ている。しかし、いつもではない出来事がオゾンを待ち受けていた。たまたま居合わせた女性が、反体制的とも言えるラジオ放送のプロデューサーだというのだ。オゾンの書いた音楽を放送に使いたい。と。一も二もなく喜ぶオゾン。しかし、放送当日になって約束は反故となり、落胆するオゾンにプロデューサーは、娘メイの家庭教師になってくれるよう願い出たのだった。

遅々として進まないリンネの機械化に、薬の効き目に納得のいかないキヨラカは再び工場へと忍び込む。しかし、待ち伏せしていた工場主オバアに捕まり、人間を、その心を残したままミンチにしてしまうという恐ろしい機械、その名も「チョーチョッパー」にかけられてしまう。姉を思いやる清らかな少女は、姉を元に戻す薬のために腕を一本差し出した。まだ足りない。今度は脚を差し出した。まだ足りない。そして最後にキヨラカから取り出した「人間の目玉」を横に置き、高らかに笑うオバア。娘の後を追ってきた母メイに気づくと、キヨラカの血を絞り出したワインを、メイのもとへ。メイは、目の前で次々と繰り広げられる惨劇に、言われるがまま、グラスを飲み干してしまう。その場にくず折れるメイ。
このことが、メイの精神構造のバランスを失わせ、出口のない精神世界へといざなっていくのであった。

(つづく)
by hajimechan74 | 2006-06-23 16:57 | 舞台映画鑑賞
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