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『1999.9年の夏休み』(3日目・その7)
(つづき)

教授、待ってください。時間をください。話し合う時間をください。ノリオがカミヤ教授に頼む。よし、いいだろう、5分間だけ時間をやろう。5分!わかりました、5分ですね。
ねえどうする。どうしよう。世界の果てを目の前に、5人の少年たちは話し合いを始める。ノリオが言う。ボクは、ボクはとぅさんとかぁさんを奪った世界に復讐したい。でも、そのために他の人たちが犠牲になるのはイヤなんだ。そうだね。とナオト。ボクも、かぁさんには裏切られたけどボクはかぁさんが好きだから、そのかぁさんのいる世界を滅ぼしたくはない。そうか、とカズヒコが続ける。ボクは、とぅさんとかぁさんが生き返らないならどちらでもいいよ。カオル、キミは。えーと。ボクは。ボクにとっての世界は、キミたちなんだ。だから、キミたちのいない世界は考えられない。タクヤ、キミはどうする。ボクは。

さあ。少年たちよ。時間だ。あの、まだ結論は。いや、出ています。カズヒコが一歩前に出る。ノリオは世界に復讐したいけど、そのために人が死ぬのはイヤ。ナオトは世界を滅ぼしたくない。ボクは、とぅさんとかぁさんが生き返らないのなら、世界を滅ぼすことに興味はない。カオルはみんなの選ぶ方。そしてタクヤはあっちの世界で生きている。。決まりました。ボクらは世界を滅ぼさない!
そうか、それがキミたちの出した結論か。では、約束どおり、キミたちの好きにすればいい。ボクも一緒に。タクヤが4人の少年に向き合う。いや、キミは2007年の世界で生きているのだから、ボクたちと一緒に死ぬ必要はないよ。カズヒコはタクヤの目をジッと見る。だから、キミは自分の世界に戻って、ボクらの分まで生きてくれ。いいね。
わかった。ボクはキミたちのことを忘れない。教授が割り込む。いや、目が覚めてしまえば今起こっていることはすべて忘れてしまうんだ。タクヤは教授の声を振り払うように叫ぶ。それでも、それでもボクはゼッタイ忘れない!!

そうか。では約束の通り、あの事故で一度は落としたキミたちの命、キミたちの好きにすればいい。ワタシは失礼するよ。と、教授、そして看護婦軍団はその場を去っていった。
残された5人の少年たち。タクヤを後ろに下がらせると、4人の少年は、お互いに顔を見合せ肯きあい、世界の淵に腰をかける。下からは、まばゆい光の洪水。これから永遠の死を迎えるというのに、光に照らし出された少年たちの顔は、まるで希望でその胸がはちきれんばかりに満たされているかのように光り輝く。
いいね。互いに肯きあう4人。ねえ、飛び降りる時、何か叫んでいこうよ。いいねえ。じゃ、何にしようか。ねえ、あれは?うん。そうだね。それにしよう。ノリオは立ち上がると、潤んだ瞳を笑顔に変えて、まっすぐに前を見据える。
ジョナサぁーン!
ノリオが飛び降りた後には、ナオトが立ち上がる。うしろで見守るタクヤと、そして、カズヒコ、カオルと肯きあう。
スカイラぁークぅ!
次はカズヒコの番。カオルとタクヤと交互に見交わす。
ジョリィ、パスタぁ!
最後はカオル。タクヤを振り向き、脚を震わせながら世界の淵に立ち上がる。こわごわと覗き見る下には、先に飛び降りていった3人の、手招きする姿でも見えたのだろうか。一瞬目を閉じて深呼吸をひとつすると、万感の思いとともに、ありったけの声で叫ぶ。
セブン、イレブぅーン!!


あれ?サエコ。おはようタクヤ。飛び起きたタクヤは勢い込んでサエコに訊ねる。ねえ、サエコ。今日は何年の何月何日?えーとねぇ、今は、4月6日の午前10時45分。いや、だから、何年の4月6日?なぁに?なんなの?変なタクヤ。今日はねぇ、2007年の4月6日よ。そうか、2007年か。チョット待って、何時だって?わぁー!今日は英語のテストがあったんだ。大変だ、遅刻しちゃうよ、あと鍵頼んだよー!
あわてて出かける僕は、東大生でも将来を嘱望された優秀な人間でもなんでもなく、二流大学の英語のテストを落としそうな、どこにでもいる大学生。あの出来事のことはすっかり忘れていました。でも、何故か、それまで生きてきた僕とは何かが違うような、そんな気がしていたのは確かです。ボクらの生み出したあの呪文、これさえあれば何でもできると思えるあの呪文を心の裡のどこかに秘め、これからの人生もなんとかやっていけるようなそんな気がしていました。
ジョナサン、スカイラーク、ジョリィパスタ、セブンイレブン、ファミリーマート、ビジネスホテル吉田、キグナス、ケンタッキーフライドチキン、藍屋、デイリーヤマザキ、焼肉叙々苑。。。

(おわり)


感動しました。その感動の何分の一かでもいいので、お伝えできればと思い書いてまいりましたが、如何でしたでしょうか。そっくりそのまま書くことは申し訳ありませんが、というかやっぱり、というか、出来ませんでした。思い出そうにもわからず、観ていた友人にきいてもどうしても分からない、なんてところもありましたし、ザックリ書いてないところもあったりしますので、なんか変じゃないの?ってところがありましたら、それは、私に起因する部分だと思います。どうもすみません。

そんなことを棚に上げて感想を書かせていただきますと、アロッタファジャイナという劇団は、そのテーマとして、「パラレルワールド」や、神の在り様を表す時に用いられる、どこにでもいるという意味の言葉「遍在」であるとか、あるいは、時間の流れをコマ切れにして順列組合せを考えるような「時間軸の再構成」なんてことを少なからずもおいていると思われます。

そして、それをまた更に組み合わせたりしているのですが、そういった複雑になるテーマを扱うためか、情報量といいますか、要するに説明の部分が多くなっているように思われます。例えば、説明ゼリフなんて言葉がありますが、通常は、会話のセリフの中に説明を含める、という意味で使われますが、そうではなく、ストーリィテラーのように、会話ではない説明のセリフがある、それも結構な分量ある。しかも言っている内容は結構複雑だぞ。となると、1回2回見ただけではなかなか理解しきれない。なんてことが多くありました、私の場合ですが(一緒に観ていた友人は、そんなに難しくないぞ。といっていましたが^^;)。

そうそう、作・演出の松枝さんには、是非小説を書いてください。という依頼があるそうです。そしてご自身、小さいころから小説が書きたかった(いや書いていた)とおっしゃっていましたが、このストーリィテリングの部分が、小説で言う、地の文に当るんだ。と思うと、なるほどこれは小説なのだ!とうならずにはいられませんでした。まあ、それはさておき。

回を重ねること今回で8回目の公演となるアロッタファジャイナ。徐々に、といいますか、結構なスピードでいい感じになって来ていると思われます。テーマへの焦点の当て方が解ってきた。どこまでやるとやりすぎになる、というサジ加減がわかってきた。そして、役者の力量があがり、より表現の幅が広がった。そんなように感じられ、もしかしたら、次の(あるいはその次の??)公演は、こんな面白いテーマが解りやすく、かつ、複雑に絡み合い、今回以上に何かとってもいいものになりそうな、そんなわくわく感あふれる今回の公演でしたm(__)m


and Peace!
by hajimechan74 | 2007-04-24 10:24 | 舞台映画鑑賞
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