携帯電話をなくしました。
電車に乗り込む前に吉祥寺駅で一本電話をかけ、京王井の頭線に乗って、下北沢の駅で降りました。井の頭線から小田急線への乗り換え駅、多くの人が行き交う流れに乗り、小田急線のホームへと急ぎます。

すると、いつものポケットにいつもの重さがないことに気がつきました。
携帯電話がありません。
トートバッグを地べたに置いてガサゴソとかき回しましたが見当たりません。どうやら電車に置いて来たようです。なんとなく集中力がないというのか、電車を降りる時、ちゃんとしまってなかったようです。あーあやっちゃいました。でも、それにしても他の客も、ケータイ忘れてますよ。くらいの声かけてくれてもいいじゃんねー。と軽く逆ギレしつつ階段を上り、駅員さんのいる改札までいきました。

「あの。忘れ物したんですけど。」

と尋ねると、

「ホームに降りる階段のちょうど真下辺りに拾得物取扱係というのがありますので、階段を下りてこう戻るように行けばすぐにありますから。」

ああそうですかどうも。ということで、さっき上ってきた階段をまた下ります。

「すいません、携帯電話を忘れたんですが。」

「はい。どちらに忘れました?!」

「電車の中だと思うんですよ井の頭せ」

「あーここ小田急線なんですよねだからね京王さんの方に行って見て下さいね西口の改札のところにそれらしいものがねありますから。ね。」

そうでしたそうでした、しっかり考えて直してみると、ここは確かに小田急線。乗り換えようとしたあの時のまま、心はまだあなたの元から乗り換えられない私がそこにいるのでした。
どうもありがとうございます。と一声かけて京王線のホームへ急ぎ足で向かいます。アマタある階段を上って下りてまた上り、ようやく井の頭線のホームにたどり着きました。改札まではあと少し。

いやいや待てよ違うでしょ!掛けるんでしょ電話してみるんでしょー、こういう時わ!!

日ごろあれだけ冷静沈着な私(当社比)としたことがまったく何をしていたんでしょう。これで万事解決です。色白で細身の彼女の、キレギレに切なげに、そして早く早くとせかすように私を呼び求めるあの声が、すぐ近くから今にも聞こえてきそうです。
あたりをうろうろうろと探します。私の願いをかなえてくれる、あの素晴らしきマシーンはどこですか。今もあるのかどこにある。傍から見れば完全に不審者の体(てい)ですが、それはこの際いいでしょう。ゆるゆると売店の裏に回りこむと、あったあったよありました緑色に燦然と輝いています、これこそまさに公衆電話。

とぅるるるる
 とぅるるるる
  とぅるるるる
   とぅるるるる
    とぅるるるる
     とぅるるるる
      とぅるるるる
       とぅるるるる
        とぅるるるる
         とぅるるるる
          とぅるるるプチ えーゆーおるすばんサービ…

ガチャン!

切ってやりました。切ってやりましたよ。そりゃあそうでしょ。ここで、自分のケータイの留守電にメッセージ吹き込んでどうしますか。どれだけ呼び出し音を鳴らし続ければ気が済むんだよごめんなさい別にどうしても話したかったって訳じゃないの呼び出し音が呼び続けてくれるうちはあなたとつながっていられるようなそんな気がしたのせめて声だけでも応答メッセージの声だけでも聞きたかったのううぅんそうよねごめんなさいこちらの勝手な一方的な気持ちだって事は自分でもよくわかっているの。でもね。それでもね。

やっぱり電車に置き忘れたようです。公衆電話の元を離れ、改札へと向かいます。

「その電車に乗ってたとすると、ちょっと待ってくださいね、渋谷を折り返して来ますから、あー、今ちょうどこの駅を発車したところですね、上りも下りも同じところに停まりますからホームに行けばすぐ確認できたんですけど、惜しかったですね。ではこうしましょうか。吉祥寺駅に連絡して探してもらいましょう。待ちますかどうされますか。そうですね30分以上はかかかると思いますよ。」

「じゃあ、とりあえず電話を止めに行った方がよさそうですね。」

連絡が入る頃こちらにお電話いただければ分かるようにしておきますので。と駅員さんが渡してくれた紙を手に、改札を出ました。
遅刻です。完全に遅刻です。このあとヒトと会う約束があるのですが、もうこの時点で待ち合わせ時間に遅れています。でも連絡しようにもケータイがありません。ケータイがないと電話番号もメルアドもわかりません。こうなると、彼女の方ももしかしたらメールなり電話なりして、何か異変を感じ取っているかも知れませんね。

とりあえず近くの石丸電気へAUショップの場所を訊こうと思い行ってみますと、AUとDoCoMoのハッピを着たおにぃさんが二人で何やら話し合っていました。ちょっと迷ってAUハッピのおにぃさんに相談すると、やっぱりDoCoMoのハッピを着た方のおにぃさんが、AUショップの場所を書いた紙を手に丁寧に教えてくれました。

遅刻もしていることですし、急ぎましょう。はい!ということで、電話が止まりました。
急ぎ方が違いますかそうですか。
とにかくAUショップに行き、ケータイが使用出来なくなるように手続きをしました。手続きといっても、AUなんとかセンターに電話して暗証番号を入力するだけで簡単にできるんですね。その上、キー操作を無効にすることもできるようです。
これで、回線が停止されました。実際には少々時間がかかるようですが、電話をかけてきたヒトに対しては恐らく「お客様の都合により…」などというメッセージが流れるのでしょう。着信拒否というのも、どうなんでしょう、同じようなメッセージが流れるのですかね。

待ち合わせ時間には大幅に遅れています。実際に顔をあわせると切り出すことが出来なくなるかも。とも思いましたし、それでもやっぱりこういうことは直接会って言った方が。とも思いましたし。ということで、再び下北沢の駅に向かいます。
先ほどの改札に顔を出すと、電車は吉祥寺駅に着きましたがそれらしいものは見当たりません。とのことでした。
ではまた電話しますよろしくお願いします。と駅員さんと別れ小田急線に乗り、待ち合わせ場所に向かいました。

そこに彼女の姿はありませんでした。

ケータイを持っていないので、もしかしたらどこか近くにいるのかも知れませんが、確認のしようもありません。もう一時間以上たっていますし、帰ったのかも知れません。それよりやはり、メールをしても返信がない、電話をしても掛からない。ということであれば、何かを察したのかも知れません。
今日はもともとそのつもりでもいましたが、まさかこんな形になるとは思いませんでした。
ちょっとホッとしたというのも正直なところですが、しばらく、しばらくそこで待ってみました。
ですが、ついに彼女は現れませんでした。

公衆電話から駅に連絡してみると、携帯電話は見つかって吉祥寺の駅で保管しているとのことでした。

電車を乗り継ぎ、吉祥寺駅で簡単な人物同定を済まして、ケータイを受け取りました。
AUなんとかセンターに電話をして回線の復帰の手続きをすると、それまで沈黙していたケータイは、止まっていた時間を埋め合わせるかのようにつぎつぎとメールを受信し始めました。

「ちょっと早く着いちゃった でも急がなくていいからね でもやっぱり早く会いたいな」
「今日はいい天気でよかったねー 今どこまで来た?」
「あれ?メール届いてないのかな もしもーし って電話じゃないって(笑)」
「電話したけど誰も出ないよ どうしたの なにかあった?」
「ねー?どうしたの?大丈夫?それもと、怒ってる?」
「電話、なんかつながらなくなっちゃったよ やっぱり怒ってるの?どういうこと?わかんないよ、言ってくれなくちゃわかんないよ」
「やだよ こんなのやだよ 悪いところがあるなら言ってよ 直すから絶対直すから 夜中の電話とかもやめるから でも不安なんだよ 夜中に目が覚めてひとりで寂しくて声聞きたいんだよ声聞くだけで安心するんだよ でも迷惑だったよねそうだよねほかにもいろいろあったもんねごめんね もう全部やめるから もうしないから だから別れるなんて言わないでお願いだから」
「ねぇ何か言ってよ こんなのやだよ」
「もういいからわかったから、別れるにしてもちゃんと言ってよ こんなのやだよ」
「こんなの、こんなのやだよぉ」
「やだよぉ」


「いままでいろいろごめんなさい さようなら」


携帯電話をなくしました。もしへんな電話やスパムメールが増えていたらそれは私のせいかも知れません。すみません。


and Peace!
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by hajimechan74 | 2007-12-23 16:04
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