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新宿のありふれた夜(その3)
(つづき)

マルボウの刑事たちもやってきました。一人は、カツヒコたちより少しばかり上でしょうか。今でこそ新宿署に勤務していますが、新宿騒乱当時は公安に身をおき、カツヒコの取調べにも当たったことのあるヒトなのでした。それが時を経て、再び新宿で「当然のように、海外に活動の拠点を求めて旅立ったのだろうと思っていたカツヒコくんと、まさかこのようなカタチで再会するとは」思っていなかったようで、カツヒコの姿をこの新宿で認めた時は大層驚いたそうです。
そしてもう一人は、正義感に燃える若刑事。何かにつけ、ヤクザに対してすごんで見せます。

とまあ、そんな経緯も手伝って、持ちつ持たれつという関係なのでしょうか、「まさか組事務所であうわけにもいくまい」ということで、タツジに指定されてこの店で待ち合わせしたとの事でした。
刑事たちの調べも徐々に進んでおり、外でウロウロしているヤクザたちが必死になって探している人間のことが分かったらしいのです。で、その人間に心当たりはないか、ということなのでした。その人物は、どうやら外国人らしい。しかも女性のようだ。その女の名前もやっとわかった。その名は、「メイ・リン」。


間が悪いのいうのか何なのか、例のヤクザ2人組みが再びやってきて、刑事がいることもわからず悪態をつきます。当然、正義感をもてあましている若い刑事は、入ってきたヤクザたちにすごんで見せますが、もう一人の刑事の「まあ、そのくらいにしておけ」の声に、つかんでいた手を離し、刑事たち出て行きました。

とたんに、タツジが動きます。カツヒコも、昔とった杵柄とでもいうのでしょうか、もちろん加勢します。店にいるもの皆でよってたかって、最後にはヤクザ者二人をノしてしまいました。

ヤクザたちを階段横の倉庫に隠し、店の中がようやく落ち着きを取り戻したころ、メイ・リンは語りだしました。
ベトナムで生まれてから新宿にたどり着くまでの、凄惨ともいう半生を。そして、新宿についてから今日に至るまでのことを。
いろいろな職を転々とし、ようやく落ち着いた新宿の中華料理屋で下働きをしていた時に、ヤクザの連中にむりやり連れて行かれたこと。連れて行かれた先は、ヤクザの組長のもとであり、そこで、同じ境遇の女の子の死に顔の写真を見せられて脅されたこと。その時、ベトナムで味わった恐怖を思い出したこと。ヤクザの組長がこの上なく恐ろしく思えたこと。無我夢中で暴れていたら、いつの間にか組長の心臓にナイフが突き刺さっていたこと。

リンちゃんは続けます。さっき外に出かけたのは、新宿の裏社会では有名なあるヒトに、偽造パスポートをもらう約束をしていた、と。そして、首尾よく受け取ることができた、と。

店にいたものの多くは、皆その昔、反戦デモに参加したものでした。今でも署名活動をしているものもいます。ゴシップ記事ばかり書いているものも、この少女の姿に「本当は俺だってなんとかしたいんだよ。何もできないのがくやしいんだよ。」とくすぶり続ける情熱の一端を垣間見せます。

さあ、どうすれば、リンちゃんを逃がすことができるのでしょうか。新宿を脱出さえできれば、あとはうまく行きそうです。しかし、店の外は警察とヤクザであふれかえっています。いろいろ考えてはみますが、案も出尽くし、皆一様に押し黙ったところに電話が鳴りました。
「これだけ警察がいたら、2年ぶりの集会ですけど、やっぱ中止ですよね?」
氷屋の青年に当てた暴走仲間からの連絡でした。青年から受話器をひったくったカツヒコ、
「とにかく集まれるだけ集まってくれ。決行するぞ!」とだけ言うと電話を切ってしまいました。
そうか!暴走族になりすまして逃げるってことか!いけるよ、カツヒコさん、これならいける!

(つづく)


and Peace!
by hajimechan74 | 2006-04-15 18:20 | 舞台映画鑑賞
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